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手記#2


わたしの音響デザイン論

 

犬塚 裕道

(ステージヴァンガード代表)

 

 

私がこの道に入るキッカケは、ありがちですが大学の劇団に入ったことでしょう。

 

戯曲を書きたくて劇団に入り、役者をやったり、演出をやったり、そして音響もやった。この中で収入を得ることが辛うじてできそうだったのが音響だった。

 

保育園で、堂々と桃太郎で主役を張った美少年とはいえ、身体・精神その他あらゆることを鑑み、役者になることは早々に諦めた。本を書くのも演出も早々に諦めざるを得なかった。

 

残ったのが音響だった。学生のときにギャラの貰える仕事が転がり込んだりして、収入に関する勘違いもあった。東京時代は音響家などではなくフリーターで知り合いの劇団の音響を担当したり、ドサ回りの舞台を手伝ったり、児童劇の旅について回ったり、イベント屋のお手伝いをしていた。色々あって1986年名古屋に来て若尾綜合舞台の音響部に入って、音響家っぽい日常が始まった。「っぽい」というのは、当時はまだ音響の仕事より照明の人手不足を補う仕事の方が若干多かったからだ。

 

録音テープの編集は大学時代に覚えていたし、東京時代に少ない機材で機材の数より多い音出したり(LとRに別の音を入れて使う)、芝居の本番中にオープンでエコーを掛けたり、ドサ廻りで指示された曲を掛けたら座長に「俺の気分が変わったのがわからねぇのか」と殴られたりと、まあいろんな経験をしたのは確かに役に立っている。

 

若尾(名古屋・株式会社若尾総合舞台)時代に、私に影響を与えた言葉はいくつかあるが、先輩照明家が言った「どうしてダンサーは音楽の壁の向こうで踊ってるの?」は結構大きい。

 

これがディレイを使うきっかけだった。舞台の奥にメインとなるスピーカを置いて、舞台前にはディレイタワーを置く。最初はスピーカの距離を測って、ディレイタイムを計算した。奥のスピーカの音に前のスピーカの音は合った。しかし何か違う。ダンサーと音楽が一緒になっていない。遊離している。その後も色々試してみて良い頃合を見つけた。うまく行くとダンサーと音楽が一体となり、ダンサーが音楽を引っ張っているようでもあり、音楽の流れにダンサーが身を任せているようでもある。つまり音が舞台で目立つことなく、邪魔をすることもない。

 

若尾時代の先輩から教わった数々の中からもう一つ。「生の地方がやるようにやれ」、テープ再生での日本舞踊の時だ。

 

着替えなどのとき、合方で繋いでおいて準備ができたら次の合方に乗り換える、このとき、地方さんであれば前の合方を終わらせて次の合方に掛かる。であればテープでもそうしろと。テープであれば多少不自然であっても仕様がないと主催者は思いがちだが、できる限り自然に聞こえるように仕事をする。見ている人に違和感を与えないようにする。誰だって音楽が途中で突然切れて別の音が掛かれば耳に付く。気持ちよく見ている観客の邪魔をしてはいけないのだ。

 

《邪魔をしない》これが私の仕事の基本だ。とかく人間というものは、音響に限らずスタッフにしろ、役者にしろ、もちろん観客だって舞台の邪魔をしがちである。とにかく邪魔をしないことが重要だ。そのためにはどうするか?

 

『キッカケは本当に正しいのか?』

 

演出から指示されたところで音を出す。本当にそれだけで正しいキッカケなのか? 役者や立ち方、ダンサー(以後演技者)の演技が、そこで本当に生きるのか? 僅かな呼吸や、ふとした心の動きを無視していないか? 照明や、その他の部署の流れに棹さしていないか? どんなに簡単で他との関わりがないように見えるキッカケにも考えるべき要素はある。例えば客席の様子。ざわついたままで音を出しても良いのか? 静まるのを待ちすぎてはいないか? 様々な要素、ありとあらゆる状況の中で最も良いときを選んで音を出したい。

 

これも考えすぎると碌なことがないけどね。でもホンの一寸した演技者感情との擦れで舞台が台無しになることは非常に多い。これは気を付けなくてはいけない。でも失敗しないと分からなかったりもするから厄介だ。

 

 

 

音量・バランスは正しいか?

 

小さ過ぎないか? 大き過ぎないか? 音の出始めはどの位でどのようにフェーダを操作するか? これも難しい。演技者の心に付いて行っているか? また付いて行って良いのか悪いのかは、舞台ごとに場面ごとに違う。

 

複数の音や音楽が重なるときの音量配分も微妙だし、二つの音を載せ換えるときのタイミングと音量も、一寸したことで耳障りになる。

 

またその音楽の成り立ちによってもバランスを考える必要があろう。

 

長唄と常磐津、清元、義太夫。それぞれ唄(浄瑠璃)と三味線のバランスが一寸違うように思う。演歌とダンスミュージックだって当然、全く違う。それぞれに最も良いバランスがあるはずだ。知らない音楽では、どんなバランスが良いかは分からない。

 

しかし、往々にして正しいバランスに近づくほど、その音楽が気持ちよくなってくる。ここで気を付けなくてはいけないのは、自分が気持ちよいと思う音楽に、どの位の幅があるかだ。この幅が狭いと、みんな同じようなアンバランスな音楽になってしまう場合が多い。選り好みせずに、音楽は聴いておいた方が、いろいろ都合がよい。

 

 

 

定位は正しいか?

 

左右の定位だけでなく前後の定位も大事だ。

 

演奏者と全く違うところから音が聞こえては不自然になる。

 

しかし、必要とされる音量が大きくなればなるほど演奏者・演技者は、音の壁の向こう側に立たされることになる。それはしかたのないこととはいえ、できる限り不自然さは出ないようにしたい。

 

また、左右の定位が演奏者の位置によって規定されるのであれば、当然前後の定位についても、その点を考慮しなければいけない。

 

しかし、これもやり過ぎるとかえって音がグチャグチャになったりするので、程々にしなければいけない。余り音量を必要とされる音楽の現場を任されないので、よく分からないが民謡などでは、唄に対して伴奏を10〜15msec遅らせると唄が上手く聞こえる。だとすればそれが、その唄い手の実力なので、この作業をサボっては演奏を邪魔したことになるんじゃなかろうか?

 

 

 

この音は誰にとって必要なのか?

 

演技者にとっては必要でも観客にとって必要ではない音、逆に観客には聞こえなくてはならないが演技者には聞こえない方が良い音、というものもあるような気がする。

 

そういうことも心のどこかに置きながら仕事をしないと、何が間違っているのか、何処が演技者と食い違っているのか、分からなくなってしまうことがあるような気がする。

 

仕事はいつも疑心暗鬼だ。本当は何が一番正しいか、なんて分からずに仕事をしている。本当に、この音は必要なのか? まあ大方は必要だから用意されているはずなのだが、少し位は疑って掛かった方が良いだろう。

 

そんなこんなの色々なことを鑑みながら、トータルで音楽にしろ、演劇にしろ、踊りにしろ、バランスの良い音が出るように、録音できるように心がけている。(耳障りな音を必要とされるとき以外では)耳障りにはならないように気を付けている。

 

うーん、しかし実際の話、日々こんなことを考えながら仕事をしているかといえば、そんなことはない。私にはそんな余裕がない! 未だに仕事に余裕がない。財布にも余裕はない。でも兎にも角にも皆様の邪魔にならないように、舞台を壊さないように心がけているつもりだ。それでも何時も迷惑を掛けているような気がする、というかご迷惑をお掛けしています。

 

私は見た(またはやっちまったことがある)ので知っている「音響が舞台を台無しにするのは簡単だし良くあるが、音響が舞台を良いものにすることは滅多にない。もし音響が舞台を良いものにしているように感じられたのなら、それは元々できの良い舞台で、舞台に音響が助けてもらった場合がほとんどであろう」その位の気持ちで仕事をした方が良い。何かしてあげようなどと考える前にやるべきことは山ほどある。そこに行き着くまでに時間切れになることが多い

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