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1979年9月

「音響」17th

 

台詞のSOUND REINFORCEMENT

 

八板賢二郎

 

全国各地に公共ホ一ルが建築され、それぞれが文化都市として名乗りを上げているが、音響の世界では万国博以来、ポピュラーミュージックだけが日本文化の主流であるかのように捉えられ、音響技術者も音響コンサルタントも大音量旋風に巻き込まれてしまったようである。しかし、最近では音楽プロダクションなどがこれらの音響に対し、反省をしだしたようである。 

今までの舞台音響は一過性のものであり、ワンパターンで流行する傾向にあった。たとえば、ドラムスのマイクセッティングでも、1つのパターンをみんなで追いかけ、日本中の音を全部そのパターンにしてしまう。だから滅びるのも早い。このことは、音響機器についても同様であろう。 

さて、各地の公共ホ一ルでは、自主企画の公演を行なうことが多くなってきた。そこで上演されるのは、日本の伝統芸能、クラシック音楽、演劇など多種多様であり、ホールの音響家たちは、ホールの音響設備を駆使して創造活動をしている。このような状況で舞台の音響技術者が高度な技能と幅広い芸術的センスを要求されるようになった。特に演劇の台詞などの補強技術が必要となってきたのである。 

スピーチのSRは舞台音響の基礎であるなどといわれるが、ここでは演劇の台詞のSR技術について考えてみることにした。 

 

 

 

パブリックアドレス 

 

戦国時代は、多くの人数を集めて軍事会議をするときでも、戦いの最中に大将が号令をかけるのもマイクロホンなど使用することなく肉声で行っていたのは当然のことで、ローマ時代は一人の政治家の声が届く範囲を町の単位としていたという説がある。 

古代ギリシャのディオニュソス野外劇場の座席数が14,000-17,000と推定されるが、ここで演じる演劇は勿論すべて生演奏と肉声であった。しかし、これらの劇場の見物席は見やすく聞きやすくするために、舞台から離れるほど高く作られ、劇場全体はすりばち状になっていた。 

 

いかに同時に多くの人たちに音を聞かせようかという工夫がされていたのである。これこそが、劇場におけるパブリックアドレスつまりPAである。 

現在の劇場は、壁や天井、舞台の奥で音を反射させて、響きがよくなるように設計されている。だから、劇場設計の際、建築音響設計はたいへん重要な作業であって、劇場使用目的(上演する催し物)に応じて考慮しなければならない。このように、劇場は基本的に音の響きを重要視して設計されている。 

 

 

 

台詞のSRを必要とする理由 

 

本来、演劇の台詞は肉声で聞かせることが基本であるが、次のような理由により、電気的に補強をする必要が生じることがある。 

 

①客席騒音が大きい 

②客席数が多い(会場が広い) 

③建築音響の不備 

④多目的ホ一ルのため音響特性が演劇ホ一ルとして適当でない 

⑤観客の聴覚が電気音響に慣れてしまっている 

⑥俳優の発声技術(台詞術)が劣っている 

 

客席の騒音とは、外部からの騒音、空調騒音、観客の騒音などである。ホールを建築する場合、必ず騒音防止の対策を行なうが、空調の騒音が大きすぎたり、観客の騒音が酷く響くホ一ルがある。また、舞台上で台詞を吸音してしまって客席に響いてこない構造の劇場もある。この場合、たとえ100~300人のホ一ルであっても台詞の明瞭度が悪くなる。 

 

演劇を上演するための理想的な座席数は、1,000席以下であるとよくいわれるが、制作上の都合で1,500~25,00席ぐらいのホールで上演することが多く、肉声では無理になってくる。また、騒音とも関係するが、建築音響の設計または施工の不備により、聞こえにくい場所ができてしまうことがある。この場合、補修工事をすることを第一とするが、応急処置と して電気音響を用いることが多い。 

 

多目的ホ一ルなどでは、クラシック音楽向きにするため、残響時間を長くしてあるので、言葉の明瞭度を重視する演劇に不向きである。演劇ホ一ルとして理想的な残響時間は、1秒位となっていて、音楽ホ一ルでは2秒が理想とされている。そのためか日本の多目的ホ一ルは、その中間値の1.5秒位が非常に多く、このようなホ一ルでは、台詞の明瞭度を上げるためにSRすることを考えなければならない。いずれにしろ、機構上は多目的ホ一ルが建築されたとしても、残響特性を多目的にするのは非常に難しいようだ。 

 

さて、以上のような点がすべて理想的な伏態であっても、もし観客自体が大音量のロックや歌謡ショー、またはテレビやレコ一ドによって電気音響に慣れてしまったらどうなるだろうか。演劇の生の音が物足りなく感じてしまうだろう。たとえば、いま流行りの歌舞伎のイヤホンによる解説や外来演劇の同時通訳に台詞音をミックスしていたら、悪影響が懸念される。 

したがって、このような理由からSRを行うということは、あまり感心できない。むしろ、観客が良い環境で音と接することができるよう、音響家全体が考えなければならないだろう。それは遊園地であろうと、駅であろうと、デパートであろうと、人類がいい音の環境で生活できるよう指導し、社会に訴えるのも音響家の役目だと思う。 

 

少し横道にそれたが、俳優の発声技術が劣っているために SRに頼ることがよくある。高齢のため声量が劣ることは別として、俳優の怠慢による電気音響導入は行なうべきでない。俳優としての訓練に勤しんでもらうことが先決だ。 

この他に、演出上、電気音響を用いることもあるが、これまで述べた悪条件を改善できるのならSRしなくて済むであろう。

 

  

 

SRを行なう前の心得 

 

やむなくSRを行なう場合、次のことは心得ておくべきではないだろうか。 

 ①俳優の感情表現を殺さないこと 

 ②俳優の存在感をなくさないこと 

 ③SRで、より以上の演出効果を醸せる 

 

台詞には感情表現が含まれている。あるときは囁き、つぶやき、怒鳴ることもある。このような台詞の起伏を殺すことなく、広いダイナミックレンジでSRしなければならない。ただ明瞭度だけを重要視して、常に一定レベルになるような音量調整は好ましくない。つぶやきや捨て台詞などのように聞こえなくてもよい場合もある。捨て台詞とは、立ち去るときに言い捨てて,返事を求めない言葉である。 

 

観客は台詞の聞こえてくる方向に気を引かれ俳優の演技に集中し、俳優は自分の世界に引き込もうと熱演するのである。もし、俳優のいる方向と違う所から台詞が聞こえてきたら、幾ら熱演しても散漫になってしまう。電気音響をどのように駆使しようとも、俳優の肉声が聞こえてくるかのように調整することが基本である。そのため、SR音の方向、音色、音量に注意しなければならない。 

そして、以上のようなことをよく考えてオペレータの技能により、俳優の演技がよりダイナミックに、よりすばらしいものになればよいのであるが、オペレータによって俳優のキャラクタ一を殺してしまうようでは困る。 

 

 

 

ホールの響き 

 

ホールの中で聞く音は、音源から直接聞こえる「直接音」と壁や天井などで反射して聞こえる「反射音」とが合成されたものである。 

もし、屋外でオーケストラの演奏をすると、ほぼ直接音だけになる。おそらく、この音は通常のホールの音に慣れたひとにとって、異質の音に聞こえるはずである。 

 

私たちは、直接音によって音源の位置を知ることができ、反射音は音の豊かさ、臨場感あるいは暖かさなどを感じることができる。しかし、直接音が多すぎると障害になるので、催し物によってどの位の量が適しているかを定めて、そのように調整している。この基本になるものが「残響時間」である。残響時間とは、当初の音のエネルギーが100万分の1(-60dB)になるまでの時間で、建築音響設計の目安になる。

 

  

 

演劇の台詞拡声の基本 

 

演出効果を妨げないで俳優の演技を殺さずにSRするには、電気音響を観客に感じさせないことである。それは視覚的にも聴覚的にいえることで、特に視覚からの先入観は大きいので、マイクロホンやスピーカが客席から見えないようにセットすることが望ましい。そして音量も必要最少限であるべきだ。 

 

次に台詞の収音方法とスピーカの位置が問題になってくる。まず、SR音が俳優の位置から聞こえてくることが望ましいが、実際に俳優の体にスピーカを仕込むことなど無理である。そこで俳優の位置にSR音を近づけることを考えなければならない。 

 

収音するマイクは、指向性の鋭いマイクを物陰にセットする方法とワイヤレスマイクを俳優の身体に仕込む方法とがある。ワイヤレスマイクを使用した場合、明瞭度は良好であるが、俳優が横を向いたり後ろを向いたりしても音質と音量が変化しないので違和感を生ずる。また、台詞の起伏を殺してしまい、俳優自身がマイクを意識してダイナミックレンジの狭い発声になりがちなである。そのうえ、ワイヤレスマイクを使用する人と使用しない人がいる場合には、ワイヤレスマイクを使用した台詞の方が前面に出てきた感じになり、観客の耳が追従できなくなり非常に聞きにくくなるので、どうしてもワイヤレスマイクを使用しなければならないときは、ディレイ装置を用いて多少時間を遅らせたりするとよい。 

 

マイクロホンをステージフロントに置いたり、ステージ上のバトンに吊って収音する場合、オフマイクになるのでハウリングを起しやすいなどの欠点はあるが、適度に反射音を収音でき、少し遅延した音になるので肉声に近い音質になる。そのため、SRしない台詞とあまり違和感がないので、最近では商業演劇でもワイヤレスマイクを嫌ってオフマイクを希望する俳優が多くなってきた。ただ、生演奏のある演劇、歌舞伎などは音楽のカブリの点で、マイクの選定とセッティングが難しい。 

 

SRの音量は、音像が俳優より離れないポイン卜でおさえなければならない。 

また、ディレイによりSR音を生の音よりも遅れるようにすると、SR音量をより大きくしても音像は俳優の位置に定位する(ハース効果)。これは、左右の音だけでなく上下の音に関しても、同様の効果が得られる。 

私たちの耳は、頭の両側についていてその間隔が平均約22 cmあるため、 

 ①左右の耳に入る音の強さの違い 

 ②左右の耳に音が到達するまでの時間の差 

などの理由により、音源の方向を判定できる。(双耳効果または両耳効果) 

 

 

 

収音マイクロホン 

 

台詞の収音に適するマイクロホンには指向性の緩いものから鋭いものまであるが、超指向性を使用すると、反射音の収音ができないので、俳優が横を向いた台詞は収音しにくくなり、マイクロホンの本数を多く必要とする。しかし、生の音楽演奏があるときはカブリが少なくなるので良く用いられるが、ミクシング操作は忙しくなる。 

指向性の緩いものは、なるべくオンマイクでセットできる場合や音楽•効果音がテープ再生でカブリが少ないとき用いられ、俳優の動きが激しくても反射音が収音されて一定音量で収音できるので、マイクロホン数は少なくてすみ、ミクシング操作も楽である。 

 

 

 

マイクロホンのセッティング 

 

演劇の台詞を収音するマイクは、観客の目に触れないよう仕込むべきである。次に、俳優の演技の邪魔にならないようにセットすることは当然のことであり、俳優の位置や動きは毎日、少しずつずれるので、それに対応できる位置にセットしなければならない。そのためには、俳優の演技範囲をリハーサル中に良く把握して、平均的な音質で収音できる位置を判断して仕込み図を作成しなければならない。 

▲オフマイクによる収音例

図のFは、舞台端に卓上用スタンドで設置したマイクで、俳優が舞台前面に居るときのものでフットマイクと呼ばれる。このマイクはフットライト器具の中に仕込むこともあるが、この場合、マイクの音質や指向特性が多少変化する。 

S1とS2は舞台頭上のバトンなどに吊られたマイクロホンで、フットマイクで収音できないステ一ジ奥の俳優のため、またはフットマイクを仕込むことのできないときに有効である。これらのマイクは超指向性(ガンマイク)を使用することが望ましい。 

俳優がフットマイクに近づきすぎたときは、吊りマイクの音を合成すると平均的な音質になる。 

以上のマイクセッティングの他に、小道具などの陰に、ピンマイクなどを仕込むこともある。

 

  

 

SRスピーカ 

 

台詞SR用スピーカは音量が小さいことなどから、客席全体に等距離で平均的音圧レベルになる位置にセッティングすることが望ましい。また、劇場の響きの一部として聞こえているように作用させれば、観客にSRを意識させない。そのためにはプロセニアムスピーカが理想的であるが、音像が上昇してしまうおそれがある。 ただし、オフマイクで収音した場合は、少し遅延して収音されるのでプロセニアムでも問題はないが、ディレイ装置を用いて、時間差をつけることにより音像を音源に近付けることができる。 

また、音像が大きくならないように音質を調整したり、俳優の早変わり衣装替え中の台詞をPAしたり、録音した台詞を再生したりするときは、舞台上に小型スピーカ(BOSE101など)を仕込むと生の音らしく聞かせることができる。 

 

(やいたけんじろう:国立劇場)

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