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1982年9月 機関誌「音響」29th

 

劇場音響シンポジウム

(1981年8月~1982年7月開催)

 

劇場の音響はどうあるべきかを学ぶ目的で、舞台を取り巻く様々なジャンルの方々のご意見を伺う場として、劇場音響シンポジウムを1981年8月から1982年7月まで、1年掛かりで13回開催した。

 

 

第1回劇場音響シンポジウム「国立劇場における音響」1981年8月25月[NHK青山荘] 講師:八板賢二郎(国立劇場)

 

第2回劇場音響シンポジウム「帝国劇場における音響」1981年9月22日[東京/富士フィルムホール] 講師:依田征矢夫(帝国劇場)

 

第3回劇場音響シンポジウム「プロダクションスタッフから見た音響」1981年10月23日[東京厚生年金会館] 講師:宮沢正光(ふぉるく)

 

第4回劇場音響シンポジウム「小劇場における音響」1981年11月25日[俳優座劇場]。講師:田村悳(音映)

 

第5回劇場音響シンポジウム「建築設計スタッフから見た地方の多目的ホール」1981年12月15日[東京/中央会館] 講師:山田幸夫(久米建築事務所)

 

第6回劇場音響シンポジウム「パネルディスカッション、良いホール・悪いホール・普通のホール」1982年1月22日[東京/富士フィルムホール] パネラー:櫻田研三(NHK)、岩崎令児(照明家)、大山英治(NHK交響楽団)、佐々木忠次(オペラプロデューサ)

 

第7回劇場音響シンポジウム「会館ミクサ一、ホール音響を語る」1982年2月23日[東京/YMCAホテル] パネラー:神田一馬(立川市民会館)、 佐々木忠衛(藤沢市民会館)、田代雅春(新潟市音楽文化会館)

 

第8回劇場音響シンポジウム「NHKホールの音響」1982年3月16日[東京厚生年金会館] 講師:宮田晴夫(NHK美術センター)

 

第9回劇場音響シンポジウム「劇場人としての立場から見た劇場音響」1982年4月19日[中野サンプラザ集会室] 講師:吉井澄夫(照明家)

 

劇場音響シンポジウム・特別編「出演者から見たホール音響」1982年4月26日[東京/健保会館] 日本音響学会と共催、パネラー:大町陽一郎(指揮者)、砂野弘武(声楽家)、光井章夫(トランペット奏者)、中森晶三(能楽師)

 

第10回劇場音響シンポシウム「公共ホール運用の問題点」1982年5月25日[YMCAホテル] 講師:小杉山禮子(東京文化会館)

 

第11回劇場音響シンポジウム「音楽制作スタッフの立場から」1982年6月25日[中野サンプラザ会議室] 講師:戸倉保雄(ワクイ音楽事務所)

 

第12回劇場音響シンポジウム「フリーディスカッション」1982年7月24日[東京/YMCAホテル] 座長:永田穂(永田穂建築音響代表)

 

◆

 

劇場音響シンポジウム特別編

出演者から見たホ一ル音響

(抜粋)

 

 

このシンポジウムは、日本音響学会建築音響研究委員会との共催によるもので、1982年4月26日、東医健保会館で行われたものである。

 

 

中森 晶三(能楽師)

 能は、現存する世界最古のミュージカルである。ミュージカルである以上、肉声だけでなく楽器もあり、笛を除けば小鼓・大鼓・太鼓と全部打楽器である。そして、その打楽器の音響効果を増幅させるために、能舞台というステージそのものがひとつの楽器となっている。

打楽器の中で太鼓は上に音が出るが、小鼓と大鼓は前と同時に後ろ側に音が出る。その後ろ側に「鏡板」があるが、その松の描いてある鏡板が非常に強力な反響板となっている。その上に「さしかけ」があり、それも天井の前方が高くなるように傾斜しているので、いわば共鳴箱の入口で打楽器を扱っていることになる。

 

地謡は横向きに座っているが、かなり角度がきつい舟底天井と、床板が非常に滑らかな檜の板ということで、自分の耳に返ってきやすく、少し広めの風呂場のなかで謡っているようなものである。したがって、演っていて非常に気分がいい。

 

劇場として見た場合、客席も含めた能楽堂そのものも、コンクリートの打ちっぱなしの壁とか、木製の壁で出来ている。音のはね返りが非常にいい反面、音の歯切れは悪くなる。そのワンワンとした状態が一種独特な能の呪術的な、あるいは夢幻的な効果をもたらしている。能はそのような音響的な環境で演奏を続けているわけである。

 

一方、観客の大部分は謡曲のお弟子であって、謡いの心得、いわば、謡いの言葉に対する“すりこみ"が終わっているため、歯切れの悪い音でも十分聞き取ることができる。能の音はああいった音だとして「能楽堂」という専用劇場が能に最適な会場であるとして通っている。

 

一般のホ一ルを使って能を演じたときに痛感したのは、いかに能にとって不適当な会場であるかということである。以下に理由を述べる。

 

1.舞台の背面が板のホリゾントならいいが、たいていの場合、布のホリゾント幕か大黒幕をバックにしてやるので、打楽器の音は全部、吸われてしまう。したがって、客席で聴く音はともかくとして、演者にとっては鼓が「ポン」といわないでポ、大鼓は「カン」といわないで「カ」と聞こえる。普段、自分の耳に入ってくる音がほとんど返ってこないために、演者は辛い思いをしなければならず、非常に疲労を感じる。

 

もっとひどいのは地謡で、囃子方は正面を向いているが地謡は横を向いている。普段はせいぜい定員が500 ~ 600名の能楽堂において、いわば能舞台という箱の中での謡が客席に拡声される形になり、戻りがあり地謡も自分の声に手応えがあるのが、一般のホ一ルでは声がすべてステージの下手の空間に吸いこまれてしまう。下手にいて準備をしているときには「今日は地謡は調子よく謡っている」と思い舞台へ出てみると、蚊の鳴くような声に聞こえる。その声を正面に押し出すために、近頃は正面に対して地謡側を舞台から切り離して、所作台を斜めにして、正面に向かって声を出すように替えた。ところが、能の囃子方と地謡の関係は、メトロノ一ムを振るようなまっすぐな関係ではない。いわば、気合いで結ばれた関係にあるものだから、それが向きを替えると、お互いの「力」が伝わらなくなる。したがって、非常に合わせにくくなるということが新しい問題として生じてきた。

 

仕手にとっても、普段だと舟底天井や床からはね返ってくる声が返ってこないので、発声が辛いということもある。それを解決するためには、能の観客がもっと多くて、同じステージで何日かあるいは何ステージか繰り返せる場合なら、例えばスピーカを真後ろへ置いて、打楽器の演奏者に対して自分の音を送ってやれば演奏者も助かるだろう。

 

地謡に対して、マイクを使ってはという声もあるが、謡の声そのもの「声量」でなくて、「声の力」を重んじる性質のため、「声の力」に対してマイクは全く無力である。マイクをつけると調子が悪くなるという関係になるので、どうしても肉声だけで声を出さなければならない。まして、仕手にワイヤレスなどはもってのほかである。そういう点で、ホ一ル演能の場合、音響的に解決しなければならないことは山ほどある。

 

2.能の音響にかかわる型のひとつに「足拍子(あしびょうし)」というものがある。能舞台の場合、甕(かめ:埋けてあると俗に伝えられているが)を床下に宙吊りにしてある。その甕は、音を増幅するためにあると長い間、信じられてきた。この「甕」の効果については、戦後NHKが調査を行っている。また、牛込の大曲(おおまがり)にあった観世会館が台風にあって床下の甕に水が入ったところ、音に非常に汚い低音の余韻が残ることが分った。舞台の板というのは、もともとが三間のかけ渡しの板(檜板)を、先の尖った根太から浮かして張ってある。つまり舞台は三間四方の太鼓の一枚皮のような関係でなくてはいけない。だから必然的に、低音部分が強調されて、不愉快な音に聞こえる。その100 Hz以下の音を消すために、甕があるのだということが、はからずも観世会館の水害でわかったのである。近頃の能楽堂の殆どは、もう甕はやめて、下に100 Hz以下を吸収する吸音板を置くように改まったようである。

 

そのような、厚さ1寸8分から2寸2分くらいの檜の板を踏みならしたときに、低音を消し去ったトンという澄んだ音が、我々にとって非常に望ましい音である。ところがホールの場合は「所作台」を使うが、その継ぎ目が苦痛となる。普段、一枚皮のような檜の板の上で舞っている我々にとって、その継ぎ目が足に触る。極端なときにはつまずく。板についた歩み方をするためには、所作台というものを根本的に考えなおしてもらいたい。

 

3.ホ一ルの所作台は薄い板なので、足拍子の音が我々のイメージとだいぶ違う。ただ並べてあるだけなので、パタンという音が入ってくる。これは、日本舞踊の人は、わりと平気だが、我々にとっては苦痛で不快感を伴う。

 

能は、能舞台でやるのが理想である。しかし、現在の能楽堂は、昔からの形式とは異なっている。もともとは野外にあって、白洲を隔てて、対の部屋から大名たちが酒を酌み交わしながら見るようなものであった。つまり、観客は数人を想定していたので、現在のように数百人という観客に、なるべく平等に見せようという劇場としての能楽堂ではなかった。

  

 

砂野弘武(オペラ歌手)

 舞台経験を積んでくると、比較的、舞台がどういうふうにできていて、客席がどちらの方向に広がっていて、というようなことを、あまり気にしないで自分の歌に専念することができるが、それ以前の技術的に未熟な段階では、客席から受ける威圧感のようなものが演奏に影響してくる。

 

若い歌手が舞台に立って、「あ、大きいな」と思ったらおしまいで、結局、大きい所に自分の声を届かせなければならないので、技術的に無理をして歌ってしまい、のどは非常に疲れるし、響かなくなる。だから、舞台から客席を見たときに、最も重要なことは、「あ、優しい感じだ」と思うことで、あえて申し上げるなら自分はこの客席の中に優しく包まれていると思ったときに、演奏家として非常にいいものを創り出すことができる。逆に、威圧感があると、客席から舞台を見たときに、聴衆も素直に音楽に入っていけないということもある。音質も硬く感じる。

 

例をあげると、スカラ座の場合2,135人も入れるのだが、舞台から客席を見て遠いという感じがしない。2階か3階の真正面などは、非常に近く見える。舞台が袖までボックス席で馬蹄形に囲まれている。天井桟敷の一番端は緞帳が触れるぐらい近い。そういう関係もあるし大きなシャンデリアも影響して遠いという感覚を与えていない。シーズンオフのオーケストラのみのときは、客席から見ていると不思議に遠く感じる。

 

オーケストラボックスのときは感じないのに、広がりがあるために、横幅を感じさせるのではないかと思う。

 

神戸の国際交流会館は、ポートピアを機会にできたが、本当に素晴らしいホ一ルで、オペラにはいい。客席のシートに使っている生地の色が温かいので歌っていて違和感がない。

 

NHKホールというのは、演奏しにくいことで有名である。スカラ座の引越公演のときに、イタリア語の関係で、ドミンゴやフレ一ニとも話したのだが、「何を歌っても親しみが持てない。あの場所でワンシーズン歌ったら、どんなに技術を持っていても、私達は殺されるであろう」と。実際「オテロ」などを聴いたのだが、トモア・シントウなど始めから終わりまで休むことなく吠えていた。ドミンゴは、さすがに彼なりの技術の中で自分が安心できるような状態を作って歌っていたが、聴いていると全く半分ぐらいしか聞こえて来ない。私は「手抜きの公演をやってるのじゃないか」と思ったが、あまり声を出さずに楽に歌っているような状態には見えないし、でも音は来ない。後で聞いてみると、「われわれは死にそうな思いで歌っていたのに、わからないか」と。それで、舞台から見ると冷たく威圧感がある。歌っていて、自分の声を気持ちよく出せるような状態ではない。その後、二期会で「アイーダ」(東京文化会館)をやってミューレルという指揮者と話していたら、シドニーに新しいホールができて、外見は素晴らしく近代建築で美しいが、中はとんでもない。音が無視されて、建築家という種族は、自分の主張を強く出して、中の状態を計算間違いしている、と言っていた。

 

前述の神戸国際交流会館の音響は、神戸大学の教授がなさったらしいが、実に温かい感じになっている。第二国立劇場もそうだが、一流の演奏家もさることながら、これから育っていかねばならない人の意見も、取り入れていただく必要があるのではないだろうか。

ついでに申し上げると、オーケストラボックスを常備することが常識となっているが、プロンプター・ボックスが何しろ狭い。二期会の「アイーダ」は原語で上演し、その際にプロンプターを務めたときは、頭の上にある板を取りはずしてもらって、傾斜を変えてやっとできた。スカラ座などは二人が十分入れるし、もちろん、テレビが置いてある。

 

東京文化会館のときは、すでにあるものを使って、オーケストラの方から新しい箱をつけたが、何しろ死にそうな箱で居心地の悪い状態だった。

 

それから、もう一つは、オペラハウスには図書館•博物館•大小道具の倉庫というものがあってほしい。

  

 

大町 陽一郎(指揮者)

 日本のホ一ルとヨーロッパのホ一ルの作り方が違うということに私が気づいたのは、留学から帰ってからである。

つい最近も、2月10 ~11日にロリン・マゼ一ルの指揮で、アメリカの最高級のオーケストラであるクリーヴランド管弦楽団が、東京文化会館で演奏会を行った。このオーケストラは、音が非常に大きい。他の指揮者がこのオーケストラを指揮しているのを、クリーヴランドのセヴェランス・ホールという音響がいいことで有名なホールの客席で聴いたときに、実にいい音をしているという印象が強かった。それを東京文化会館で聴いたら、ひとつも良くない。はるか遠くの方で、別世界のことが行われているという感じだった。やはり、この文化会館は、いろいろ難点があるんだということを思い起こした。

 

セヴェランス・ホールというのは1930年頃に建てられたホ一ルで、ジョージ・セルという音楽監督が長いこと、この楽団で活躍された。1970年頃、その総監督のひと言で、カイルホルツ氏という音響学の権威で、ニュ一ヨ一クのリンカーンセンターのコンサートホール(ニューヨークフイルが演奏している会場)や、ザルツブルグの音楽祭の会場を設計された方に、セヴェランス・ホールの改造を依頼した。

 

なぜ、ジョージ・セルは、カイルホルツ氏を、わざわざクリーヴランドに呼んだかというと、彼はザルツブルグに住んでいてカラヤンの親しい友達である。また、ご自身で設計事務所を持ち、主として音楽会場の設計•施工をしている。その上、昔からベルリンの放送局のプロデュ一サとして、長年、オ一ケストラなどの録音をやっていた。

 

カラヤンがベルリンフィルと日本へ来るときに東京文化会館、NHKホ一ル、普門館の三つのホ一ルで、どこが演奏会場として相応しいか行って見て来てほしいと、カイルホルツに依頼した。その残響のいい所を自分の演奏会場にしたいということで、私も一緒に廻った。そのときのことを、朝日新聞に書いたわけだがカイルホルツは残響を測る機械を持参し、手拍子を鳴らして確かめていらした。それで、東京文化会館へ行った際に「この会館は非常に良くない。「よく、こんな所で演奏会をやっている」という印象を持ったようだ。

 

私が東京フィルの常任指揮者をやっているときに、最初は日比谷公会堂だったが、東京文化会館に会場を移すときに、皆、音響が日比谷公会堂よりも悪くなるのではないかと心配した。初めにN響が移って、次に東京フィルも思いきって移って、最初の演奏会のときに楽員たちがどう感じたかというと、「もやもやしていて音がはっきりしない」ということを言っていた記憶がある。それで、この間、クリーヴランド管弦楽団が演奏したときに、第2ヴァイオリンのトップにいたゴールドシュミット氏が私に「今日の演奏会は、客席にいてどうだったか」というので、言葉を濁していたら「よく聞こえなかったのではないか。実際、私は演奏していて非常に聞きにくかった。日本人は、こんなにお金持ちになって、自動車もテレビも世界最高のものを作るのに、どうして響きのいい音楽会場だけは作らないんだ」と言われた。私は、そのときに、日本の建築家の人たちが抱いている劇場に対するイメ一ジが、多少、外国と違うのではないかと思った。

 

東京文化会館が駄目かというと、N響の指揮に来ているサヴァリッシュ氏のように、いいという人もいる。NHKホールはというと、同氏は「自分はN響の名誉指揮者だから具合が悪いが、あそこは困る」という意見があった。どうしてかというと、NHKホールを建てる際に、NHKの方たちがサヴァリッシュ氏に、いろいろと諮問したらしい。サヴァリッシュ氏は、「われわれヨーロッパ人が考えている音楽をやるのならば、あのホールは大きすぎる」と、それに反対した。日本人が考えているヨ一ロッパ音楽ならいいが、ヨ一ロッパ人が考えているヨーロッパ音楽をやるには大きい。それで結局のところ、NHKホ一ルでやりやすかったという方に巡り会えていないが、私が考えるに、あそこは放送用に作られたものであって音を電気で増幅してやるということしか考えていないホールだと思う。要するに、クラシック音楽をやる場合の、マイクを使わない演奏会場としては考えていないのではないだろうか。いろいろなポピュラーな催しを全部マイクを使ってやるのなら、あれでもいいだろう。NHKホールで東ドイツのベルリン国立歌劇場が、モ一ツァルトのオペラばかりやったが、ベルリン国立歌劇場で私が聴いたときは、皆、すごい声量で歌っていた。

 

ところがNHKで、テオ・アダムが歌うモーツァルトのオペラを聴いたら、まずオーケストラが同じオーケストラかと思うほど音が小さい。マンドリン合奏団を聴いているような感じにしか聞こえない。テオ・アダムが、ものすごい勢いで歌っているのはわかるが、自分が前にのめり出して聴きたくなる。オペラというものの概念から離れたものになってしまっている。このときは、たいへん評判が悪くて、やはりベルリンは二流なのではないか、と囁かれた。ベルリン国立オペラというのはたいへん優秀なオペラなのに、聴いた人は皆がっかりした。日本のオペラ劇場というのは、ある程度マイクで拾わないと駄目なのか、そういうように作られているから多少そうした方がいいのか、そうすることによって聴きやすくなるのか?

 

ベルリン国立オペラの人たちは、そういうことを知らないで一際やらなかったから、あまりにもそこに差が出てしまったのではないだろうか?

 

カラヤンがカイルホルツ氏をいろいろな所に派遣して、文化会館もNHKホ一ルも駄目で、結局、普門館を改造すれば何とかなるということで、力ラヤンが理想とする残響時間2秒に改造した。

その後、ベルリン•フィルが来て演奏会をやったが、これもまた駄目だった。いわゆる西洋の音楽の概念からは、ほど遠いものであった。それで、カイルホルツ氏に言ったのは、残響時間2.0秒でカラヤンは満足しているが、私の聴いた感じでは全然駄目だと。要するに、会場の雰囲気とか演奏者から自分がどれだけ離れているかということによって、音楽を聴いたときの印象は随分と違ってしまう。だから音響学的には2.0秒の残響があるにしても、あまり広い所でやられると、音楽というのは身近に感じられないということがあるのではないかと思った。

カラヤンのお好みの場所でリンツのすぐ近くに残響3.5秒のザンクト・フローリアンという、ブルックナーが昔オルガンを弾いていた古い教会がある。そこに、大阪フィルハーモニーが行って演奏したが、そのときの話によると、何だか全部がワンワン鳴っていて、たいへんな残響だった。それで、日本の楽員たちは、あまり感心しなかったようだ。

 

昔、日比谷公会堂で演奏していた人たちが、東京文化会館に移ったときに、残響が長いと感じた。それでも、外国のオーケストラには、あのホ一ルは残響が少ないと思われている。ニューヨークのカ一ネギ一ホ一ルの音響がいいとされていて、みんなが存続させようと言っているが、あそこの残響は2.0秒ある。カイルホルツ氏のいうように音響学的には1.9 ~2.0秒、それ以上の残響がないと音楽会場として全然駄目らしい。

 

日本のホールは、地方の文化会館でも、皆、同じような形をしている。東京文化会館のイミテ一ションのようで、音響もどこへ行っても同じようだ。十勝清水の801名収容のホールは良かった。

 

外国のホ一ルは、床がフラットで、天井も高く舟底型である。

外国の指揮者が来るたびに、どこのホ一ルがいいか聞いたところ、ウィーンの楽友協会ホール、アムステルダムのコンセルトへボウ、ボストンのシンフォニ一ホ一ル、ニュ一ヨ一クのカ一ネギーホ一ルを誉めている。

 

ウィーンの楽友協会ホールはベストで、床はフラッ卜、椅子は木製で舞台の床の下が空洞になっている。能舞台と似た造りで、おそらく客席の床の下も空洞なのではないだろうか。日本のホールは、映画館からきた造りのようで、幕があって、オーケストラの音が上に抜けてしまう。しかし、これも好みがあって、ウィ一ンで録ったテープをNHKの技術者に聞かせたら「音がこもっていて不明瞭だ」という感想だった。NHKの録音というのはシャープで、各パートの音が明るく録れているが、弦楽器の音に豊かさがない。

 

反対の例として、バイロイト祝典劇場では、オーケストラボックスが舞台の下に入っている。そのため、ボックスの中で音がこもって、その音が歌手に聞こえるが、わざとそうしているということだ。日本の映画館スタイルのホールでは望めない。

 

ウィ一ンの国立歌劇場など、客席にボックス席があるが、日本では無理だろう。皆が映画館のように、平等に良く見たいと思うからだ。ボックス席の効果というのは、音が拡散されることである。さらに、外国の演奏会場は彫刻があったりして拡散の効果をあげている。

 

日本のホ一ルの中では、長崎の諫早文化会館と、宮城の中新田町民文化会館が良いと思う。ホ一ルの基本的な形態で、日本の場合、コストの点と、文化庁からの指示が影響してくるが、中新田町民文化会館では文化庁の助成を断わったので、いいものができたのではないだろうか。ここの音響は、NHK技研が担当されたらしいが1席あたり10?という空間と、反射音を増やすために壁を傾斜させてあって、いいことだと思う。

 

カイルホルツ氏は、日本のホ一ルは、空間が少ないと言っていた。狭い所に人を多勢つめ込むのが日本のホールの基本的な欠陥ではないだろうか。

 

NHKホ一ルは、やはりスピーカを使うためのホ一ルで、クラシック音楽を演奏するには抵抗がある。私の考えでは、コンサートホ一ルで2,000人、オペラ劇場のボックス形式で1,600人収容が理想である。これは、日本人の声の大きさと体格も考慮した上での最大限である。

 

これからは、日本のホールも自然の音が響くようなものを建てていただきたいと思う。


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