ライブ・エンターテイメントEXPO 技術セミナー 実施報告
日時:2023年6月29日 東京ビッグサイト 11:00~、14:00~、16:00~
主催:RX Japan株式会社
共催:一般社団法人日本音響家協会
① 11:00~ スポーツ施設の音響設備
プロスポーツ施設のサウンドシステムデザイン&チューニング
講師:井戸 覚道
(一社)日本音響家協会 音響家技能認定講座常任講師
◆2001年にボーズ株式会社へ入社、プロオーディオ部門の技術スタッフとして約22年従事。現在はサウンドシステムデザイナーとして活動。全国のホールやスポーツ施設など多数のプロジェクトでサウンドシステムデザイン・チューニングを手掛ける。
井戸氏は、プロスポーツ施設のサウンドシステムデザインとチューニングについて、関係者が誤解しがちなことや見落としがちなことを中心に、音源の試聴も交えながら、わかりやすく解説されました。
現在では、デザインツールとして音響シミュレーションソフトがあり、機能は充実しているものの、全てがコンピュータで自動化されている訳ではなく、シミュレーション結果の判断やプランの修正などについては、やはりサウンドシステムデザイナーの知識と経験が必要であることを再認識しました。
講義の最後には、音響演出のための新しい試みの事例紹介もありました。「スポーツ施設の音響システムガイド」のような各種指針も最近改訂されているという説明もありましたし、時代に合わせて、要望・要求に適切に対応することが求められているようです。
今後、豊富な知識と経験を持ったサウンドシステムデザイナーおよびサウンドシステムチューナが携わったスポーツ施設が増えていくことを期待したくなる講義でした。
② 14:00~ 劇場技術のマネジメント
講師:小川 幹雄
(一社)日本舞台監督協会 理事長
◆1974年から日本舞台監督協会の創立会員として参画し、現在は理事長。一方、劇団演出部や劇場運営に携わり、全国公演や海外公演を多数手掛ける。1997年に開場した新国立劇場の技術マネジメントのヘッド、国際連携協力室の初代室長を務める。
小川氏は、劇場の技術スタッフの目標達成を目指すためのマネジメントについて、海外での事例なども交えながら解説されました。
日本において一般的に「劇場」というと、建築などハードのことを指し、劇場で働くスタッフなどソフトのことは指さないことが多いようですが、劇場技術を支えるスタッフは欠かせない存在です。
また、たとえ音響技術者であっても、舞台や照明など他のセクションの仕事を理解することは重要であるとも述べられていました。
劇場における規制と創造性は相反することもあるが、劇場スタッフとしては、危険だから何でも禁止するのではなく、より安全に行える代替案の提案ができればとても良い、という話には納得できました。
安全管理や人材育成についても、目指すべき方向について論じられていました。
今回の講義のテーマである劇場技術マネジメントについては、日本音響家協会が監修した、「劇場技術マネジメント教本」が兼六館出版から発行されるそうなので、こちらにも注目です。
③ 16:00~ ピアノとの付き合い方
講師:大津 直規
(一社)日本音響家協会 会友
◆1975年に三新ピアノ調律所に所属し、ピアノ修理全般を学びながらレコーディングスタジオやコンサートホールで調律を担当。2004年から国立音楽大学別科調律専修の専任講師となる。2019年
3月、国立音楽大学を退職。現在はフリーランスとして活躍。
大津氏は、ピアノの歴史や構成、調律師の仕事などについて解説されました。
調律は、物理的現象(理論)に基づいて行うものであって、絶対音感(心理学)で行うものではないそうです。
また、調律師に求められるのは、ピアノとその使用者にとって最良の作業を的確に行うことであって、「ほら、良くなったでしょ」というような調律師の感性による発言は慎むべき、という点は興味深く、ピアノにおける調律師の役割は、音響システムにおけるサウンドシステムチューナの役割とも似ているように思われました。
音響技術者にとってもピアノ所有者にとっても、知らないことがあるから不安になるのであって、ピアノについて正しく知っていれば、安心して向き合うことができます。
それぞれの楽器について、正しく知ることの大切さをあらためて感じる講義でした。
【報告:奈良暁】